CHOMPOOシェフ・料理家森枝 幹
オーストラリアなど海外のレストランで修業後、日本の料亭や五つ星ホテルのダイニングバーなどで経験を積み、さまざまな味に精通する森枝幹(もりえだ・かん)さん。現在は東京・渋谷PARCO(パルコ)でタイ料理店「CHOMPOO(チョンプー)」のシェフとして腕をふるっています。何度もタイの各地を訪れ、現地の人とも仲良くなってきた森枝さんは、アジアの発酵調味料の生かし方の達人。今回は日本の発酵食品である、「いかの塩辛」をアレンジした絶品2品を教えてもらいました。野菜もたっぷり食べられます。
料理:森枝幹 / 構成:森綾 / 写真:小林みのる
前回はタイでも中国でもよく使うオイスターソースを使いました。今回は、ちょっと意外なところで日本の発酵食品である「いかの塩辛」を調味料っぽく使ってみたいと思います。
というのも、タイにも魚介類を発酵させたものがいろいろあるんです。もちろん、ナンプラーもそうだけれど、もうちょっと食材の原形をとどめている、発酵の度合いが浅いものもあります。淡水魚を使った「パラー」という調味料は、ちょっと原形が残っていて、日本のいかの塩辛っぽい味がします。ナンプラーは薄口醤油だけど、パラーは濃口醤油という感じ。
そのほかには、カニを潰して塩漬けにして発酵させたもの(プーケム)でソムタムをつくったりしますから、日本にあるものだと、いかの塩辛がいけるんじゃないかと思ったんです。カニから出たみその感じもちょっと似ているので。
タイでソムタムといえば、青パパイヤでつくるサラダ風のあえ物のような料理。タイの東北地方では、先ほどの魚介の原形が残っているパラーを使います。独特のクセがあって、立体的な味わいです。
日本ではきゅうりなら年中あるし、これからの季節は特に美味しいので、ぜひつくってみてほしいです。いかの塩辛が入ると、すごく美味しくなります。一緒に合わせるいんげんは生で。生のいんげんはあまり食べたことがないかもしれませんが、これが青っぽくて美味しいんですよ。
ポイントは、最後に全部をジッパー付きの袋に入れて揉むこと。現地では石臼で叩きながらつくるんですが、とにかく野菜の繊維を潰しながら味を染み込ませるということです。野菜の表面はつるつるしているので、叩いたり潰したりすることで、味の染み具合がまったく違ってきます。
もう一品は、タイ風のサムギョプサルです。サムギョプサルといえば韓国の料理ですが、いかの塩辛と香味野菜でタイ風に味わいます。豚バラの塊は、なるべく赤身も入っていて、できれば皮付きのものが手に入ると最高です。これをひと口大に切り、ホットプレートで両面がカリッとするまで焼く。
つけ合わせの葉物は洗ってしばらく冷たい氷水につけておきます。食べる前に水気を切り、パリッとさせましょう。バジル、えごま、サンチュ、サニーレタス、ミント。いろんな香味野菜を用意して、生にんにくと生の唐辛子を細く切ったものと、いかの塩辛、焼いた肉を包んで食べる。それだけの料理ですが、塩辛のちょっとクセのある感じがすごくいいんです。つけだれはライムとナンプラーあたりをお好みで。酢とミントを合わせたものもおすすめです。いかの塩辛はなるべく甘味がないものを選ぶ方がいいかも。
いろんな料理をやってきて、今はタイ料理の店「CHOMPOO」をやっています。タイ料理って何がいいかって、味が退屈じゃないんですよね。日本料理のきれいな五基本味(きほんみ)*の五角形というのもすばらしいけど、その五角形を突き抜けていく面白さがあるんです。めっちゃ甘い、めっちゃ辛い、めっちゃ酸っぱい……でも最終的に新しいバランスを構築している。あと、香りがすごく効果的に使われているのも、いいところです。「CHOMPOO」ではタイにしかないものはタイで調達しているので、本物を味わえますよ。*五基本味:甘味、酸味、苦味、塩味、うま味
きゅうり・・・2本
生のいんげん・・・3〜4本
ミニトマト・・・3個
ピーナッツ(細かく砕く)・・・大さじ1
〈A〉
いかの塩辛(粗く叩く)・・・大さじ1程度
ライム(搾り汁)・・・1/4個分
ナンプラー・・・小さじ1
砂糖・・・小さじ1/2
にんにく(みじん切り)・・・1かけ
粉唐辛子・・・小さじ1
豚バラ肉(塊)・・・400〜500g
サンチュ(またはサニーレタスなど)・・・1パック
えごまの葉・・・1〜2パック
シソ・・・1パック
バジル・・・1パック
ミント・・・1パック
その他、お好きな香味野菜
いかの塩辛・・・1パック(100〜150 g程度)
にんにく・・・1かけ
生の唐辛子(なければ乾燥したもの)・・・2〜3本
〈A〉つけだれ
カットライム・・・適量
ナンプラー・・・適量
PROFILE
森枝幹(もりえだ・かん)
1986年生まれ。調理師専門学校を卒業後、オーストラリアへ留学。世界のベストレストランの常連「Tetsuya’s」(豪州・シドニー)で料理を学び、帰国後は京料理の「湖月」(東京・表参道)で修業。その後、マンダリン オリエンタル 東京(東京・日本橋)内の「タパス モラキュラーバー」で修業を積み、2011年に独立。東京・下北沢の「Salmon&Trout(サーモン・アンド・トラウト)」(現在閉店中)のシェフとなり人気を博した後、2019年に東京・渋谷PARCOにタイ料理店「CHOMPOO(チョンプー)」をオープン。ほかにフードマガジンの発行や、レストランプロデュース、イベント開催など、従来の料理人の枠にとらわれず活動を続ける。