漆戸 正浩「コンセプトは『近所の酒場』。入りやすい雰囲気でクオリティーは最高に」

もっと語ろう麹と発酵 Vol.12 世界のバーシーン〈NY編〉コンセプトは「近所の酒場」。入りやすい雰囲気でクオリティーは最高に

「Katana Kitten」オーナーバーテンダー漆戸 正浩

大衆居酒屋のような活気となじみのある雰囲気でありながら、最高のカクテルを出すバーがニューヨークのウエストビレッジにあります。「Katana Kitten(カタナ・キトゥン)」は2018年にオープン。2022年に「2022 The World’s 50 Best Bars」で9位に輝きました。そのクオリティーの高さは世界でも認められています。オーナーバーテンダーの漆戸正浩さんが表現したい世界観やカクテルに対するこだわり、日本の國酒(こくしゅ)でもある焼酎をアメリカ市場にどう広めたらいいかなどを伺いました。
文:菅 礼子 / 写真:三井公一
インタビュー場所:Katana Kitten(531 Hudson St, New York, NY 10014, USA)

生活のために始めたバーテンダーの仕事で後にチャンピオンを獲得

――ニューヨークに来たきっかけ、バーテンダーとしてのキャリアはどのように積みましたか。

元々、従兄弟がニューヨークの大学院に来ていたのがキッカケで誘ってもらい、2003年にニューヨークを訪れました。ガイドブック片手に街を散策していると、ニューヨークの雰囲気が好きになって、普通の生活を送ってみたくなりました。英語も6歳の頃から習っていたので、日本を抜け出したいという気持ちが当時ありました。

従兄弟からも「こっちの学校に来てみたら?」と促されたので「CUNY LaGuardia Community College*1」に通うことにしました。働かないと生活ができないのでカフェやレストランでアルバイトをしていたのですが、「ちょっと違うな」と思って、「Kingswood(キングスウッド)」(現在は閉店)というオーストラリアンレストランで学校に通いながらバーテンダーをすることになったんです。*1 CUNY LaGuardia Community College:ニューヨーク市立大学ラガーディア・コミュニティ・カレッジ。クイーンズ区にあるニューヨーク市立の2年制カレッジ。

漆戸正浩さん

3〜4日連続で、夜中までバーで働いて、バンケットで仮眠を取って授業に行き、授業から帰ってきたらまたバーで働くという生活をしていました。毎日3〜4時間しか寝ない生活を続けていましたが、当時は若かったのでできたことなんでしょうね。

「Kingswood」で働いた後、後にカクテルで注目されることになるレストランバーの「Saxon + Parole(サクソン・パロール)」でバーテンダーとして7年働きました。最初はお店も忙しかったですし、コンペには興味がなかったのですが、コンペにも参加するようになりました。

営業中にシーバスリーガルの方がバーに来て「コンペに参加しないか」とお誘いいただき、最初は「興味ない」と言ったんです。でも、話を詳しく伺うと、チャレンジングな内容で面白そうだったので参加することにしました。その結果、2014年に「ザ・シーバス マスターズ 2014」(シーバスリーガル主催)の初代チャンピオンをいただくことができました。

親しみのある雰囲気と一流カクテルがサーブされるというギャップ

――どんなところにこだわってお店を運営していらっしゃいますか。

「Japanese American Bar」をコンセプトに、アメリカスタイルのバーに日本の要素をツイスト(入れ込む)しています。コンセプトとしてはお洒落につくり込むつもりはなく、「Neighborhood Bar(近所の酒場)」をイメージしてつくりました。

漆戸正浩さん

愛嬌(あいきょう)があって、チャーミングなスタッフがいる、みんなが入りやすい雰囲気のバーにしたいと思いました。あくまで堅苦しくなく、入りやすいのですが、カクテルは銀座のバーで出しても通用するクオリティーを目指しました。また、ニューヨークにはスピークイージー*2と呼ばれる隠れ家バーはあるのですが、このコンセプトと「Katana Kitten」とは対照的ですね。*2 スピークイージー:語源としては、米国の禁酒法施行時期(1920~1933年、州により異なる)に隆盛していた酒の密売所で「こっそり酒を注文する」ことを指す。禁酒法廃止以降は、レトロなバーを指したり、最近では隠れ家的なバーを指したりする。

「Katana Kitten(カタナ・キトゥン)」の正面扉「Katana Kitten(カタナ・キトゥン)」の正面扉

「近所の酒場」という表現にはいろいろな意味合いが込められていますが、オフィスワーカーが仕事後に寄れる立ち飲みだったり、肉体労働者が1日の終わりの一杯を楽しんでくつろげる場所だったり。ロケーションはたまたま現在のいい場所が見つかって、大衆的な雰囲気で皆さんに楽しんでいただいています。

インテリアはバーコンサルタントのドン・リーさんにデザインしてもらいました。日本的な酒場をどうやってニューヨークになじませようかと思って、天井の梁(はり)など、直線的に木を組み合わせて日本の古民家風の雰囲気を演出しています。バーカウンターは私の身長に合わせてもらいました。飲みに来てくれるお客さんがいろいろなお土産を置いていってくれるので、カウンター周りがどんどんにぎやかになってきています(笑)。

「Katana Kitten(カタナ・キトゥン)」店内の装飾

お客様を含めて全員で生み出すポジティブなバイブス

――ニューヨークのバーは人々にとってどんな存在ですか。

これは、カクテルバー「Katana Kitten」がどんな存在かという話にもなると思います。カクテルバーに行くこと自体がファンシーな(楽しい)ことだと思うので、その中でもあえて「近所の酒場」に行く理由は何だろうかと考えてみます。それはおそらく、ソーシャル(社交)のためだったり、バーテンダーと会話を楽しむためだったり、デートの場所だったり。それぞれのテーブルにストーリーがありますよね。バーはそれぞれのストーリーの舞台でしょうか。

とにかくお客さんには楽しく飲んでもらうことが一番。「Katana Kitten」に来てくれるお客さんの目的はさまざまでも、同じバイブス(ノリ、テンション)をみんな持っている。他のお客さんのやり取りや雰囲気を見て、ポジティブなエネルギーを感じて、バーの店内がひとつになることが醍醐味です。

――接客で気をつけていることはありますか。

プロとして当然なのですが、氷の温度やグラスの温度など、ディテールにまで気を使っています。温度の面でも常にベストのカクテルを出したいので、テーブルに出た時の温度を計算します。それでいてお店に入るとどこかホッとすることも大事だと思っていて、緊張させない、リラックスしたムードをつくるようにしています。

お店の雰囲気はカジュアルなのに、出てくるカクテルは一流というギャップを出せたらいいと思っています。それぞれのバーにコンセプトがあると思うのですが、うちにはリラックスしに来てくれたらいい。厳しい接客の基礎は、日本時代に働いていた代官山の「Tableaux(タブローズ)」で教わりました。フードランナー*3としてシルバーを磨いてテーブルをセットしてと、シンプルなようでプレッシャーがありました。その頃の経験が今でも生きています。*3 フードランナー:シェフがつくった料理をお客さんのテーブルまで運ぶのが主な仕事。テーブルのセットアップ、食べ終わった皿やグラスを下げること、ナイフやフォークなどを磨くこと、掃除なども行う。

漆戸正浩さん
「Katana Kitten(カタナ・キトゥン)」店内に飾られたお店の表彰トロフィー

ソフトな味わいを生み出す焼酎の魅力

――お店で人気のカクテルは何ですか。

居酒屋からアイデアをもらっているので、「シソ ジン&トニック」や「メロンライムソーダ」など5つのハイボールカクテルを出していますが、どれも人気があります。メニューが多いとかえってお客さんが迷ってしまうので5つに絞っています。製氷会社「Okamoto Studio Custom Ice」さんの素晴らしい品質の氷を日本のビールマグに入れてお出ししています。

ウイスキーや焼酎も人気ですね。焼酎カクテルは「iichiko彩天」をベースにした「meguroni(メグローニ) #2」が1つ、アルコール度数43度の麦焼酎とジュネバ*4の相性がいいです。もう1つは焼酎ベースのローアルコールカクテル「el camino(エル・カミノ)」で、これは「いいちこシルエット」に煎茶、きゅうり、メキシコのリキュールを加えたものです。*4 ジュネバ:ジンの起源とも言われるオランダ生まれのスピリッツ。

  • 漆戸正浩さんがカクテルづくりを実演
  • 漆戸正浩さんがカクテルづくりを実演
  • 漆戸正浩さんがカクテルづくりを実演
  • 漆戸正浩さんがカクテルづくりを実演
  • 漆戸正浩さんがカクテルづくりを実演定番の焼酎カクテル。左がiichiko彩天を使った「meguroni #2」、右がいいちこシルエットを使った「el camino」

――アメリカでの焼酎の認知度はどの程度ですか。

「Katana Kitten」に来ていただける時点で日本に興味があるお客様も多いのですが、それでも、焼酎は「Japanese national spirits」という認識を持っている人もいる、という程度。日本酒に比べたらまだまだ認知度が低いのですが、それってこれから伸びるチャンスですよね。

焼酎はソフトな味わいなので、ネグローニ*5をつくる際に使ってみると普通よりまろやかなものになります。これはちょうどメスカル*6の存在と似ています。例えばマルガリータ*7をメスカルでつくることでスモーキーな味わいになります。そのように焼酎は定番のカクテルにも変化を加えることができます。

そういった意味で焼酎を使った「meguroni #2」は、大事な位置付けのカクテルです。どこの国でも知らないものや発音が難しいものは頼みづらいし、そうしたお酒をストレートやロックで飲むことには抵抗があるはずなので、カクテルにして名前も工夫する必要があります。カクテルから焼酎に興味を持ってくれる人がいたらロックで飲んでもらってもいいと思います。*5 ネグローニ:ジン、ベルモット、カンパリを合わせたカクテル。
*6 メスカル:アガベ(リュウゼツラン)を主原料とするメキシコ産蒸留酒。テキーラはメスカルの1種で、テキーラ地区で造られたメスカルを指す。原料は、テキーラがアガベ・アスール(ブルーアガベ)から造られるが、他のメスカルは約50種類のアガベを単独、あるいは複数使って造られる。
*7 マルガリータ:テキーラをベースとしたカクテル。

――「iichiko彩天」のようなアルコール度数の高い焼酎の反応はいかがですか。

元々「いいちこ」がアメリカの焼酎市場の地盤を固めているという印象がありましたが、「iichiko彩天」が出てきた時、アメリカ市場で成功するなと感じました。アルコール度数よりもフレーバーが重要ですが、スピリッツと言えば一般的にはアルコール度数40度のものを指しますし、バーテンダーにとっては使いやすく、市場では受け入れられていくと思います。

麹のユニークさも味わいに表れていて、うまみがあるというか、飲んでもらえれば分かりますね。美味しいものは自然と広がっていくと信じていましたので、思ったとおり今では「iichiko彩天」はいろいろなバーに置いてあります。もちろん、25度の焼酎には25度のものならではの、まろやかなうまみを出せるという良さがあります。

漆戸正浩さん
漆戸正浩さん
漆戸正浩(うるしど・まさひろ)

PROFILE

漆戸正浩(うるしど・まさひろ)

長野県上伊那郡箕輪(みのわ)町出身。東京・代官山「Tableaux(タブローズ)」でフードランナーとして働き、後にバーテンダーを務める。東京・銀座のイタリアンレストラン「Dazzle(ダズル)」でバーテンダーとして働いた後、渡米。レストランバーの「Kingswood(キングスウッド)」、「Saxon + Parole(サクソン・パロール)」で経験を積む。2014年に「ザ・シーバスマスターズ 2014」(シーバスリーガル主催)の初代チャンピオンに輝く。2018年に自身のバー「Katana Kitten(カタナ・キトゥン)」をオープン。2022年に「2022 The World’s 50 Best Bars(世界のベストバー50)」(William Reed Business Media)9位を獲得。漆戸氏自身も2022年に「Altos Bartenders’ Bartender Award(バーテンダーの中のバーテンダー賞)」に選出された。