お酒のアルコールはどうやって生み出されるのですか?

麹と発酵の基礎講座 第5回お酒のアルコールはどうやって生み出されるのですか?

撮影:三井公一

健康ブームや和食ブームと共に発酵食品が注目されています。味噌(みそ)や醤油(しょうゆ)、ヨーグルトやチーズといった発酵食品のほか、日本の「國酒(こくしゅ)」ともいわれる焼酎や日本酒も発酵食品の代表選手。発酵食品をつくる過程で微生物が大活躍していることをご存じの方も多いでしょう。本コーナーでは、三和酒類のシンクタンク「三和研究所」で常日頃から微生物に向かい合う研究員が、麹(こうじ)と発酵の基礎を解説いたします。

三和酒類 三和研究所 研究員 都甲祐介
教えてくれた人
三和酒類 三和研究所 研究員 都甲祐介

Q1

お酒のアルコールって、米や麦、芋などの穀物、あるいはぶどうなどの果実を原料として、どのように生み出されるのですか。そのときに微生物はどのように関わるのですか。

そもそもアルコールは、「酵母」が糖を餌(えさ)として摂取して生み出されます。

微生物である酵母が生育する環境に酸素がなかったり不足していると、酵母はブドウ糖をアルコール(エタノール)と二酸化炭素(CO2)に分解して、その過程でエネルギーを得ます。この反応経路(メカニズム)を「アルコール発酵」といいます。

なお、酸素が十分にある環境下でも、糖の濃度が高くなり過ぎると、酵母はアルコール発酵を行うこともあります。このメカニズムはいまだ解明には至っていませんが、酸素の濃度と糖の濃度がアルコール発酵を引き起こす重要な要素であることは間違いありません。

酵母の拡大写真(写真提供:独立行政法人酒類総合研究所)酵母の拡大写真(写真提供:独立行政法人酒類総合研究所)

糖というのはブドウ糖(小さい糖)などの状態で存在している場合と、多糖(ブドウ糖などの小さい糖がつながっている状態)で存在しているものなどさまざまな種類があります。例えばぶどうの果実に糖はブドウ糖の状態で保持されています。一方、大麦では多糖などを含んだ状態で保持されているため、酵母にとっては餌として大き過ぎることから、ブドウ糖などの小さな状態に分解する工程(糖化といいます)が必要になる場合があります。

本講座の第3回「『麹菌』と『酵素』ってどんな関係なのですか?」の中で、アミラーゼという酵素がでんぷんを分解してブドウ糖をつくり出す仕組みを説明していますのでご参照ください。

アルコール発酵の形態にはお酒の種類によって数種類あります。

アルコール発酵に関わる微生物の中で酵母のみが関与する「単発酵」や「単行複発酵(たんこうふくはっこう)」と呼ばれるものと、麹と酵母が関与する「並行複発酵」(へいこうふくはっこう)といったものです。いずれも共通するプロセスとして「アルコールの生産は酵母が行っている」という点に注目してください。

酒類ごとのアルコール発酵の形態
呼び名 酒類 発酵の形態
単発酵 ワイン 原料の中にブドウ糖が存在→酵母利用
単行複発酵 ビール 糖化と発酵が別々のタイミングで進行
並行複発酵 焼酎
日本酒
糖化と発酵が同時並行で進行

まずは「単発酵」の説明から行いますね。

単発酵の代表例がワインです。麹とそこから生産される酵素なしに、酵母だけでどのように発酵するのか疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。ワインでは原材料(ぶどうを砕いて搾った果汁)の中にブドウ糖が含まれているので、麹ならびに酵素が作用しなくても、酵母が糖を餌として食べられる大きさであるため、そのまま酵母の増殖とアルコール発酵が行われます。

図1-1 単発酵

ぶどうの果実に含まれるブドウ糖をアルコール発酵するぶどうの果実に含まれるブドウ糖をアルコール発酵する

「単行複発酵」の代表例がビールです。

ビールでは、原材料である麦芽が糖化酵素を有しているため、その酵素によって麦が含むでんぷんから麦芽糖、さらにブドウ糖が生産されます。こうして酵母がアルコール発酵を行える状態になります。糖化と発酵が同時にではなく、別々のタイミングに行われているため単行複発酵といいます。

図1-2 単行複発酵

糖化と発酵が別々のタイミングで行われる糖化と発酵が別々のタイミングで行われる

最後に「並行複発酵」について。代表例が焼酎と日本酒です。

原材料中に含まれる多糖が、麹に含まれている酵素によってブドウ糖などに分解されます。例えば焼酎の製造工程で、タンクの中のもろみでは麹と酵母が混ざり合っているため、麹が酵素反応(糖化)により生成したブドウ糖を酵母が利用することで、アルコールが生産されます。麹と酵母が同時に糖化と発酵を行っているので、並行複発酵といいます。

図1-3 並行複発酵

麹に含まれている酵素による糖化と、酵母のアルコール発酵が同時に(並行して)行われる麹に含まれている酵素による糖化と、酵母のアルコール発酵が同時に(並行して)行われる

焼酎や日本酒をつくる際には麹菌が利用されています。

酒類や食品に麹を利用することは日本ならではの特徴だと思います。近年クラフトビールを開発・製造する酒蔵もあり、海外発であるクラフトビールに日本の伝統技術である麹を利用しているものも見かけるようになりました。

Q2

お酒の製造工程のどのタイミングでアルコールが生み出されるのですか。

本格麦焼酎の製法を例に説明しますね。

三和酒類が製造している本格麦焼酎は図2のような製造工程となります。

図2 麦焼酎の製造工程

図2 麦焼酎の製造工程

大麦に含まれる糖はブドウ糖の状態ではなく、多糖の状態で存在しているため、これらをブドウ糖の状態まで小さくする必要があります。その役を担うのが麹菌です。大麦そのままの状態だと麹菌は生育しづらいことから、吸水して蒸すことによって麹菌が大麦中に生えやすい環境を整えます。温度や湿度の条件などの環境を調節することによって大麦麹を製造します。

できた大麦麹に酵母と水を混ぜることで「一次もろみ」を製造します。一次もろみの中では麹の酵素反応が進行し、大麦に含まれる多糖がブドウ糖になります。上でも説明した「糖化」ですね。

酵母はブドウ糖を餌として摂取することで増殖していきます。この環境の中が嫌気性状態(酸素が乏しい状態)になると、酵母は糖からアルコールと二酸化炭素を生産して、エネルギーを生み出します。冒頭で述べたようにこのメカニズムがアルコール発酵ですね。

続いて蒸し麦などの栄養を再度添加(掛け作業)することによって「二次もろみ」を製造します。二次もろみの中でも酵母のアルコール生産が継続的に行われていきます。ちなみに日本酒では、3段仕込みや4段仕込みと呼ばれるように掛け作業を3、4回行う手法を用います。

アルコール生産は蒸留前まで続きます。焼酎製造ではここから蒸留工程において、アルコールや香気成分を気体にしてから冷却して液体にしたものを回収していきます。

蒸留後にはオフフレーバー*の要因になり得る成分などを、ろ過などの精製工程を通して取り除くことでお酒を仕上げていきます。精製工程部分には各社・各蔵でノウハウを有しているため、ここでは詳細な説明は割愛させていただきます。

焼酎の組成は99%のエタノールと水に約1%の香気成分と言われており、この約1%の組成によって多種多様なお酒が開発されています。* オフフレーバー:ここでは油臭(あぶらしゅう)などを示す。パルミチン酸エチルやオレイン酸エチルなどといった高級脂肪酸がもろみの中でエタノールと化合して生成した油性物質が前駆体(オフフレーバーが生成する前の段階)である。この前駆体が酸化されることでオフフレーバーが発生して油臭の原因となる。

Q3

そもそも酵母がアルコール生産をするのはなぜですか?

それは酵母自身が生きていくためのエネルギーを産出するためです。

人間と同様に酵母も酸素がある環境下(「好気性条件」といいます)においては、酸素と糖を利用してエネルギーを生産しています(呼吸系)。製造工程中の一次もろみ開始時には、溶存酸素(液中に溶け込んでいる酸素)などがもろみ中に存在するため、エネルギーを生産して酵母が増殖していきます。

ただし、もろみの中の溶存酸素は限られているため、酵母が増殖していくにつれて枯渇してきます(「嫌気性条件」といいます)。この条件下で酵母は生き残ろうと菌体内のメカニズムをフル活用します。これがブドウ糖をアルコールと二酸化炭素に分解して、その過程でエネルギーを得ようとするアルコール発酵のメカニズムです。こ うして酵母は嫌気性条件下でも持ちこたえることができます。

このように酵母は、好気性・嫌気性いずれの条件下でもエネルギーを獲得するメカニズムを有しているのです。しかし、さらにアルコールが増え続けると酵母は生育できなくなるため、もろみの中で死滅していきます。酵母がその場の環境下で生き残ろうと努力した際に発生した副産物を、人間がお酒として生活に利用していると言えます。

今回はアルコール(エタノール)が生まれるメカニズムを説明しました。
次回はもう一度、アルコール発酵をする酵母についてさらに詳しく説明していきます。

都甲祐介(とごう・ゆうすけ)

PROFILE

都甲祐介(とごう・ゆうすけ)

三和酒類株式会社 三和研究所 クロスオーバーセンター 研究開発室 研究員
1994年、大分市生まれ。九州大学生物資源環境科学府生命機能科学修士課程にて麹菌を研究。修士号取得後、2018年に三和酒類に入社。製造課で焼酎づくりの基礎を学んだ後に、三和研究所で麹菌の基礎研究と商品開発を行っている。日中は研究・開発を行い、帰宅後は読書や友人と飲みに繰り出す日々。「糸状菌若手の会」の委員も務めている。飲み会の雰囲気が大好きで、お酒が強い人・弱い人みんなの架け橋になるような商品をつくり出すことが現在の夢である。趣味は野球観戦で、小学1年生の時から大のヤクルトファンである。