発酵食品をつくる微生物とは?

麹と発酵の基礎講座 第2回発酵食品をつくる微生物とは?

麹菌の胞子が繁殖している様子(写真提供:独立行政法人酒類総合研究所)

健康ブームや和食ブームと共に発酵食品が注目されています。味噌(みそ)や醤油(しょうゆ)、ヨーグルトやチーズといった発酵食品のほか、日本の「國酒(こくしゅ)」ともいわれる焼酎や日本酒も発酵食品の代表選手。発酵食品をつくる過程で微生物が大活躍していることをご存じの方も多いでしょう。本コーナーでは、三和酒類のシンクタンク「三和研究所」で常日頃から微生物に向かい合う研究員が、麹(こうじ)と発酵の基礎を解説いたします。

第1回はこちら
三和酒類 三和研究所 研究員 都甲祐介
教えてくれた人
三和酒類 三和研究所 研究員 都甲祐介

Q1

いまさらですが教えてください。
「微生物」とはどんなものなのですか。

肉眼では見えない世界なので分かりにくいですよね。まずは、大きく「微生物」と「ウイルス」に分けられると思います。「微生物」とはその名のとおり微小な生物のことであり、身近で聞く単語としては「カビ」や「細菌」が該当します。

発酵食品をつくるときに用いる微生物を例に挙げると

本連載の第1回「そもそも『発酵』って何ですか?」でご紹介したように、味噌や醤油、日本酒や焼酎をつくる際に活躍する「麹菌」は「真菌」に分類される「カビ」の一種です。

「真菌」の中で「カビ」というのは菌糸(きんし)と呼ばれる管状の細胞から構成されているものを指し、その形状から「糸状菌(しじょうきん)」とも呼ばれます。

また、お酒などを製造するときに「麹菌」と共に活躍する微生物の「酵母」も、「麹菌」と同じように「真菌」の仲間に分類されます。

「真菌(カビ)」というのは、核(遺伝子情報)を包む膜(核膜)を有する微生物で、細胞小器官を有しており、「細菌」や「ウイルス」と比較すると動植物に近いといえます。

「麹菌」が糸状に生育している様子。サイズは5μm程度(写真提供:陶山明子/別府大学)「麹菌」が糸状に生育している様子。サイズは5μm程度(写真提供:陶山明子/別府大学)

発酵食品であるヨーグルトなどをつくるときに使われる「乳酸菌」や、納豆をつくるときに使われる「納豆菌」は、「細菌」に分類されます。「細菌」は「バクテリア」とも呼ばれます。

「細菌」に分類される「乳酸菌」。サイズは1~2μm程度(写真提供:独立行政法人酒類総合研究所)「細菌」に分類される「乳酸菌」。サイズは1~2μm程度(写真提供:独立行政法人酒類総合研究所)

一方、「ウイルス」は生物としては扱われません。その理由は、「細胞がないこと」「自己増殖能(栄養摂取をして増殖する能力)がないこと」といった部分です。

「ウイルス」は私たちの身の回りでも感染することがある新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス、ノロウイルスなどが該当します。

新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真。サイズは0.05μm程度(撮影:東京大学医科学研究所 今井正樹客員教授・氏江美智子博士)新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真。サイズは0.05μm程度(撮影:東京大学医科学研究所 今井正樹客員教授・氏江美智子博士)

ちなみに、微生物とウイルスの大きさを比べてみると

肉眼では見えない大きさですが、そのサイズを見てみましょう。「真菌(カビ)」は5μm(マイクロメートル)程度、乳酸菌などの「細菌」は1μm程度。光学顕微鏡を使えば見ることができます。かたや、「ウイルス」となると、その大きさは0.05μm程度。

▼スマートフォンは横スクロールでご覧ください
●微生物とウイルスとの比較
サイズ*1 細胞の有無 核(遺伝子情報)の
有無
自己増殖能*2
有無
真菌(カビ) 5μm程度
細菌 1~2μm程度
ウイルス 0.05μm程度
*1 μm(マイクロメートル):1μmは1mmの1000分の1
*2 自己増殖能:栄養摂取をして単独で増殖する能力

「真菌(カビ)」と「細菌」と「ウイルス」の構造を図で見てみましょう

それぞれの構造を見てみましょう。「真菌(カビ)」には核膜がありその中にはっきりとした核があります。ミトコンドリアや小胞体など細胞小器官を有した複雑な構造であるのに対して、「細菌」は核膜がなくて核がはっきりせず、シンプルな構造となっています。

上でも述べましたが、ヒトや動物、植物の細胞に近しい構造をしているのが「真菌(カビ)」で、かけ離れているのが「細菌」となります。

「ウイルス」は、カプシドというたんぱく質の殻にDNAまたはRNAを内包した構造をしています。それが体内に入ることによって、遺伝子情報が複製されることで増殖といった形をとっているのです。

ヒトの細胞に近しい構造を持つ
「真菌(カビ)」
ヒトの細胞に近しい構造を持つ「真菌(カビ)」
「真菌(カビ)」より小さくシンプルな構造
「細菌」
「細菌」のサイズは「真菌(カビ)」より小さくシンプルな構造
生物の仲間には分類できない
「ウイルス」
生物の仲間には分類できない「ウイルス」

Q2

発酵食品をつくるときに活躍する「麹菌」は「カビ(糸状菌)」の一種なんですね。「カビ」なのに人間が食べても大丈夫なんでしょうか。

「カビ(糸状菌)」の中には「麹菌」も含まれます。読者の多くの皆さんが持たれる疑問ですよね。これまでの経験や教育の場で、「カビ=食品にとって良くないもの、ヒトにとって有害な微生物」という認識を持たれているのではありませんか?

実はこれは正解でもあり、不正解でもあります。

質問の通り、「麹菌」は「カビ(糸状菌)」の一種であるということは間違いないのですが、世の中で「麹菌」というのは、日常的に私たちの周りで食されている「発酵食品に利用されるカビ(糸状菌)」が該当します。おそらく古来、人が偶然に発見して経験的に活用し続けてきた、人にとって「有益であり、かつ無害」な「カビ(糸状菌)」の1つが「麹菌」なのです。

言い換えると2013年に「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、「麹菌」というのは、まさにこの和食の基本をつくり出すことに貢献した「カビ(糸状菌)」を指します。

発酵と腐敗の境目のように、「カビ(糸状菌)」全体で見ても、ヒトにとって「有益であり、かつ無害」に作用するものと、「無益であり、かつ有害」に作用するものに分かれるといったイメージに近いと思われます。

「有益であり、かつ無害」な「カビ(糸状菌)」には、「麹菌」以外でも、海外では古くから食用に使われてきた「カビ(糸状菌)」があります。チーズづくりに使われるアオカビはその代表例ですね。

都甲祐介(とごう・ゆうすけ)

PROFILE

都甲祐介(とごう・ゆうすけ)

三和酒類株式会社 三和研究所 クロスオーバーセンター 研究開発室 研究員
1994年、大分市生まれ。九州大学生物資源環境科学府生命機能科学修士課程にて麹菌を研究。修士号取得後、2018年に三和酒類に入社。製造課で焼酎づくりの基礎を学んだ後に、三和研究所で麹菌の基礎研究と商品開発を行っている。日中は研究・開発を行い、帰宅後は読書や友人と飲みに繰り出す日々。「糸状菌若手の会」の委員も務めている。飲み会の雰囲気が大好きで、お酒が強い人・弱い人みんなの架け橋になるような商品をつくり出すことが現在の夢である。趣味は野球観戦で、小学1年生の時から大のヤクルトファンである。