Dr.下田の新本格焼酎論 第5回

本格焼酎のつくり方:「貯蔵・熟成」から「瓶詰め」まで 後編〜最終製品を生み出す「蔵元の技」

三和酒類で技術者、経営者として本格焼酎づくりに携わってきた「焼酎博士」こと下田雅彦(しもだ・まさひこ)の語り下ろしによる本連載。「貯蔵・熟成」を終えたのち、本格焼酎はどのようにして仕上げられ、消費者のもとに届けられるのでしょうか。いよいよ最後の工程です。第5回「『貯蔵・熟成』から『瓶詰め』まで 前編~本格焼酎は『新酒文化』」語り:下田雅彦(三和酒類 顧問) / 構成:井上健二 / 写真:三井公一

1986年の「表示規制」に始まり、他の蒸留酒との酒税格差是正による1987~2000年の5回の増税。本格焼酎業界と各メーカーの生き残りをかけた品質(=価格に見合う価値)競争は、結果として奇跡とも言える第3次焼酎ブーム(2000~2007年)につながりました。前回コラムでは、その間の私の経験を踏まえ、「本格焼酎は『酒屋万流』で危機を乗り越えた」とご説明しました。今回は、「ブレンド」以降の工程をお話しすることで、本格焼酎の製造方法がどう変わったのかといった各蔵元の品質へのこだわりをお伝えできたらと考えています。

本格焼酎の製造工程図(作:下田雅彦)

ステップ9 ブレンド、精製ろ過

蔵元による独自の技「ブレンド、精製ろ過」

日本の酒づくりではブレンドのことを「調合」と言います。実は、一般向けの本格焼酎の解説書では「調合、精製」の工程はあまり取り上げられません。酒質の調整が目的であったため、製造技術の専門書でも出荷前のアルコール分調整と同じ出荷管理の一部としての扱いだったのです。

日本酒の場合、「調合」は大事な目的があります。秋に収穫した新米を使用して、10月頃から翌年3月にかけて「寒(かん)造り」で仕込みます。順次、新酒が出来上がりますが、昔は季節の移ろいや時間の経過に従い、日本酒の味わいは刻々と変化していました。また、米の硬軟や仕込み時の天候の違いにより、甘辛や酸味など微妙に酒質が変わります。

麹を使った日本の酒づくりでは、年間を通して一定の品質のお酒を提供するのは至難の業。そこで、仕込みの異なる新酒や前年の古酒を合酒(あいしゅ)して「調合」することで、年ごとや季節による酒質の違いを調整していたのです。

同じ理由で本格焼酎においても、特に芋焼酎では、作柄や収穫時期により原料の芋の品質が変わるため、同じ味わいのお酒に仕上げるのは簡単ではありません。そこで調合を行い、蔵ごとの品質を保っていました。本格焼酎も、日本酒と同じように基本的に「新酒文化」ですから、新旧の原酒を調合して年間を通じて品質を安定、均一化し、1年間で売り切る必要があるのです。この考え方は「守りの調合」といえるかもしれません。

一方、長年、麦焼酎の製造に携わってきた私から見ると、現在の本格焼酎の製造方法は、従来の「守りの調合」に加えて、さまざまな原酒をつくり分け、商品の酒質を組み立てるための「攻めの調合」に変わってきたと感じています。

一例を挙げると、1988年、三和酒類では二次仕込みも麦麹で仕込む「全麹仕込み」を開発しました。この原酒は減圧蒸留でも常圧蒸留でも、全麹仕込み特有の濃厚な香りや味わいを醸し出せることから、10年近くは調合用で表には出さない原酒として使用していました。私は、このころから「調合」より「ブレンド」という言葉がふさわしいと考えるようになったのです。その後、1998年に全麹仕込みの麦焼酎「いいちこフラスコボトル」を発売しました。

左が製麹(せいきく)前の精白麦、右が2日かけて麹菌をつけた麦麹。二次仕込みも麦麹で仕込む全麹仕込みでは、原料処理に相応の手間暇がかかる

次に「精製」です。原酒の風味と濁りをいくらか残した状態で製品化するのが好ましいと考えられていた時代では、「精製」は、出荷前に不純物を除去する程度の「荒ろ過」が主流で、例外的に製造工程や貯蔵でついた好ましくないにおいや味などの酒質を手直しする工程でもありました。

ところが、1970年代の最新ろ過技術を駆使した「精製」は、純粋アルコールの味わいの甲類焼酎に近づけるための技術として活用されました。アルデヒド臭、酸臭、ジアセチル臭、硫化臭、漬物臭、末垂れ臭、焦げ臭など、原酒に含まれる欠点臭の除去に効果を発揮したのです。

その後、本格焼酎が全国で飲まれるようになったことで消費者の志向が徐々に多様化します。その変化に応じて、布ろ過、珪藻土(けいそうど)ろ過、活性炭ろ過、イオン交換樹脂ろ過、冷却ろ過、マイクロフィルターろ過などが時代とともに洗練されていき、本格焼酎の特徴ある風味を活かす「精製」へと進化しました。現在では、各蔵元は多様なろ過技術を駆使し、商品の差別化に活用していると想像しています。

「ブレンド」とともに「精製」の工程は、商品の差別化の鍵を握る門外不出のノウハウとして、蔵元独自の技が競われる領域なのです。

ステップ10 割水

ステップ11 瓶詰め

製品に至る最終工程、割水、瓶詰め

ステップ10「割水」とステップ11「瓶詰め」は、どんな製品をつくるかによって変わります。工程自体はシンプルなのでごく簡単に紹介しましょう。

割水とは、規定のアルコール度数に調整するため最終工程で加水することを言います。もともと、本格焼酎の蒸留後の原酒のアルコール濃度は40%前後ですが、明治時代に酒税の対象となったことで、製品のアルコール濃度は標準化され、25%と20%が一般的となりました。日本全体としては圧倒的に25%の市場なのですが、大分県、宮崎県など例外的に20%が好まれる地域もあります。最近はアルコール濃度も多様化してきました。

本格焼酎づくりでは水が大切です。水こそが最大の原材料だからです。私たち酒造メーカーは新たに製造場をつくる際、まず良い地下水が豊富に得られる土地を探します。水がきれい、すなわち汚染菌がいない衛生的で美味しい水であることはもちろんですが、鉄やマンガンの含有率が少ないことが重要な条件。水に鉄やマンガンが含まれていると、原酒中の微量の油分と結びついてオリが生じたりするからです。

三和酒類本社敷地内にある集水洞
バルブを操作して割水の量を調節する

割水後に行われる大事な工程が、出荷検査です。お客さまの口に入る瞬間に最高の状態になるよう、最後はやはり人が検査を行います。官能検査、いわゆる「きき酒」です。

きき酒には、分析型と嗜好型があります。分析型は自らの好き嫌いの感覚は封印し、官能検査の機械になったつもりで冷静かつ客観的に風味をチェックします。日々の出荷検査で求められるのは、分析型のきき酒なのです。嗜好型は、逆に、好き、嫌いという自分の好みを前面に出して風味を評価するもの。新商品の開発などに欠かせません。どちらも、人の感性が問われる工程であることは言うまでもありません。三和酒類では分析機器による検査も実施し、独自の基準で人の感性を補完するバックアップ体制も重要視しています。

三和酒類では毎朝、味覚パネリストが出荷前官能検査を行う

出荷検査後に瓶詰めです。かつて透明瓶や青瓶を使っていた時代には、焼酎に含まれる微量の油分が紫外線で酸化することで発生する油臭が、問題視されたこともありました。このため現在の本格焼酎の瓶は、紫外線を通さない濃い茶瓶か黒瓶が主流。最近は、UVカット処理した特殊な透明瓶が開発され、あえて中身の淡い濁りや色を見せる商品もあります。また、容器の材質、形状、容量も多様化して、機能性やデザイン性など品質保全以上の価値を持つようになっています。

ステップ12 本格焼酎(製品)

最終製品と製造方法を設計する時代

ここでは、1980年代以降に開発された製造方法による商品の多様化について、主要な事例を以下に簡単に示しておきたいと思います。

これらは、目的とする最終製品から逆算して、製造工程で新たに開発された要素を組み合わせることにより、本格焼酎の商品の多様性を格段に広げました。消費者の嗜好の動向を踏まえた製造方法を設計する手法に変わっていったのです。

この要素の組み合わせは、主原料の種類の多さを考えると無限にあると言えるかもしれません。本格焼酎の多様性の魅力が今後ますます進化していくことが期待されます。

図「製造方法の開発(1980年代以降)による商品多様化の要素」
表「製造方法による本格焼酎の多様化の事例」(作:下田雅彦) * 貯蔵・熟成に伴う本格焼酎の着色度規制:本格焼酎は、ウイスキーなど他の樽貯蔵した濃色蒸留酒と誤認されないよう、着色度(吸光度=光の通りやすさ)0.080以下という上限が設けられている。この色の濃さは、銘柄にもよるが、一般的なウイスキーやブランデーのおよそ10分の1程度に相当する。

この連載での製造方法に沿った解説は、今回で最後となります。ここで「Dr.下田の新本格焼酎論」のこれまでを振り返ってみましょう。

⇒第1回「本格焼酎を『奇跡のスピリッツ』と呼ぶ3つの理由」
⇒第2回「『一麹』前編~美味しい本格焼酎を目指す最初のステップ」
⇒第2回「『一麹』後編~本格焼酎の救世主となった黒麹菌・白麹菌」
⇒第3回「『二酛、三つくり』前編~発酵の『もと』となる酵母を増やす『一次仕込み』」
⇒第3回「『二酛、三つくり』後編~本格焼酎の多様性の源泉」
⇒第4回「『蒸留』『冷却ろ過』前編~『清酒ブランデー』の発想から生まれた『減圧蒸留』」
⇒第4回「『蒸留』『冷却ろ過』後編~本格焼酎の最大の課題『油臭』」
⇒第5回「『貯蔵・熟成』から『瓶詰め』まで 前編~本格焼酎は『新酒文化』」

連載のスタート、第1回で「本格焼酎は奇跡のスピリッツ」と紹介しました。第2回~第5回では、その理由について本格焼酎に起こった歴史上の3つの技術転換点を説明してきました。

それらを総括すると、1つ目の転換点は500年前の「本格焼酎誕生の奇跡」、2つ目の転換点は120年前の「産業化の奇跡」、そして3つ目の転換点は50年前の「市場形成の奇跡」と言えるかもしれません。そして、2000年以降になってようやく、現在進行形ではありますが、晴れて「日本が誇る蒸留酒」として認められるようになりました。

ここに至るまでの本格焼酎の歩みは、日本の伝統的な酒づくりと革新技術が調和してきた歴史であり、その結果、世界でも珍しい、麹を利用した極めて日本的な蒸留酒にいたったと考えています。

本格焼酎がこの先どのような進展を見せるのか、それは私にも分かりません。ただ1つ確実に言えるのは、「本格焼酎の多様性」は価値観が多様化した現代の飲酒文化に適応していく大きな可能性を秘めているということです。これからは、その魅力を製造者側だけの視点ではなく、飲酒シーンも含めた視点で探求していく必要があるかもしれません。私自身は本格焼酎研究家として、異なる立場の人との交流も重ねながら、これからも本格焼酎の可能性を探求し続けていきたいと考えています。

主要参考文献:「本格焼酎製造技術」(日本醸造協会、1991年)、「焼酎の履歴書」(鮫島吉廣、イカロス出版、2020年)、「焼酎の科学」(鮫島吉廣・髙峯和則共著、講談社)、「発酵と醸造 Ⅱ」(東和男編著、光琳、2003年)、「焼酎のはなし」(菅間誠之助、技報堂出版、1984年)、「世界のスピリッツ 焼酎」(関根彰、技報堂出版、2005年)、「銘酒誕生」(小泉武夫、講談社、1996年)

下田雅彦(しもだ・まさひこ)

PROFILE

下田雅彦(しもだ・まさひこ)

三和酒類株式会社 顧問 工学博士
1955(昭和30)年生まれ、大分県豊後大野市出身。大阪大学工学部醗酵工学科卒業後、兵庫県の日本酒メーカーに勤務。1984(昭和59)年にUターンで三和酒類に入社。専門技術者として焼酎製造技術開発、商品開発、品質管理に従事しながら、1998(平成10)年に大阪大学工学博士号取得。1999(平成11)年に取締役に就任後、2017(平成29)年、オーナー家以外から初の社長に就任。2023(令和5)年、取締役会長、2025(令和7)年10月より顧問を務める。