濱口昌大「まろやかでコクのある発酵トマトの万能ドレッシング」

はじめての発酵食レシピ Vol.24まろやかでコクのある発酵トマトの万能ドレッシング

sel sal saleシェフ濱口 昌大

食通が集まると評判の、東京・恵比寿にある創作イタリアン「sel sal sale(セルサルサーレ)」。オーナーシェフ濱口昌大(はまぐち・まさひろ)さんの料理は、店名の由来となっている塩*1へのこだわりに限らず、各地から選りすぐった食材をアイデア豊かな調理法で提供しています。また、調理師学校の講師も務めている濱口シェフは、料理の手順を数値化してわかりやすく伝えているのが特徴。今回はトマトを発酵させて作る「発酵トマト」と、それを使ったアレンジレシピを教えていただきました。*1 塩:selはフランス語、salはラテン語、saleはイタリア語でそれぞれ塩を意味する。

料理:濱口昌大 / 構成:森綾 / 写真:木村文平

イタリアンの王道、トマトを発酵させる

「sel sal sale」は、イタリアンとうたってはいますが、和食のような味わいを感じる方もいますし、フレンチのようだとおっしゃる方もいます。週末のランチはパスタをメインにしたイタリアンらしい料理ですが、基本はディナーコースのみの営業で、デザートまで10皿以上、旬を大事にしたさまざまな味をお届けしています。発酵食材は、その深い味わいから僕の料理には欠かせません。

イタリアでの修業時代にも、しらすと唐辛子と柑橘でキムチのような発酵食品を作ったり、ミントと大豆で納豆を作ったりしたことがありました。定番のメニューにはみりん粕*2を使ったものや、季節の果物を発酵させたものも取り入れています。今回はイタリアンの食材の定番にして王道、トマトを発酵させてみました。これさえあれば、ドレッシングを買ってくる必要がなくなります。*2 みりん粕:「こぼれ梅」とも呼ばれる。みりんをつくる際に出る副産物。「もろみ」を搾った後に残るみりんの粕のこと。

ご家庭でうまく食材を発酵させるにはいくつかポイントがあります。できれば水分の多い食材を選ぶこと。そして、その食材に対して2%の塩を使うこと。僕の店では1.5%でやることもありますが、2%が安心でしょう。さらに、発酵の際、雑菌を繁殖させないために密閉すること。密閉されていないと、すぐにカビが生えてしまいます。

今回は、ジップ付きの保存袋に材料を入れ、ボウルに張った水に沈めながら空気を抜くことで簡単に密閉する方法をご紹介します。少量作るなら、わざわざ専用の密閉機を買わなくてもこれで十分です。普通のトマトでもミニトマトでも、まずは余ったトマトで作ってみてください。

トマトと塩だけで作る発酵トマトトマトと塩だけで作る発酵トマト

魚、肉にも使える発酵トマトの万能ドレッシング

今回は発酵トマトを使ったドレッシングをお刺身用の鯛と、冷製カッペリーニ*3に合わせています。実はこの料理、「sel sal sale」で必ず1皿目にお出ししているスペシャリテに近いものです。店ではカッペリーニをくるくるとフォークに巻き付け、その上にタイを載せて、ひと口サイズでお出ししています。*3 カッペリーニ:直径1mm前後の極細パスタ。

「発酵トマトドレッシング」は塩分も控えめで、飽きのこない味だと思います。野菜だけでなく、魚や肉にも合う万能ドレッシングです。「発酵トマトの冷製パスタ」は、ドレッシングとカッペリーニを合わせるときに、パスタの小麦の成分が出てとろみがつき、全体が黄色っぽくなるまで60回ほどしっかりと混ぜるのがポイントです。

発酵トマトのまろやかさというのは、日本人が好きな“コク”なんです。日本人の味覚には発酵から生まれる美味しさが深く関わっているんですね。

発酵食RECIPE

発酵トマト

発酵トマト

▼材料(基本の作りやすい分量)

トマト・・・250g(中サイズで2個くらい、または同量のミニトマト)

塩・・・5g(トマトに対して2%)

発酵トマトの材料
▼作り方
  1. 洗って水気を切ったトマトをざく切りにし、塩と共にジップ付きの保存袋に入れる。
  2. 大きめのボウルに水を張る。少し口を開けた1の袋を、水を張ったボウルに沈めていき(口は上にして水が入らないように注意する)、水圧で袋の中の空気が抜けたら口を閉じる。袋の上から手で押してトマトを潰してもよい。
  3. 常温で3〜5日ほど置いて発酵させる。袋が少し膨らんだら袋を開けてガスを抜き、再度密閉する。酸味が出てくるので、好みのところで発酵を止める。
  4. 発酵後は冷蔵庫で保存する。小分けにして冷凍すれば、1カ月ほどもつ。
発酵トマトの作り方
発酵トマトドレッシングのサラダ

発酵トマトドレッシングのサラダ

▼材料(2人分)

発酵トマト・・・80g

エクストラバージンオリーブオイル・・・32g

ベビーリーフ ・・・1パック

オクラ・・・2本

いんげん・・・6本

ブロッコリー・・・1/2株

ラディッシュ・・・2個

発酵トマトドレッシングのサラダの材料
▼作り方
  1. 発酵トマトとエクストラバージンオリーブオイルを混ぜ、ドレッシングを作る(発酵トマト:オイルの割合は、5:2が目安)。
  2. オクラ、いんげん、ブロッコリーはサッとゆでて一口大にカットする。ラディッシュはスライスに。
  3. ボウルに野菜と発酵トマトドレッシングを入れ、ボウルを回しながらふわっとまとわせるようにあえる。サラダに使う野菜は好みのものでよい。
発酵トマトドレッシングのサラダの作り方
発酵トマトの冷製パスタ

発酵トマトの冷製パスタ

▼材料(2人分)

カッペリーニ・・・60g

発酵トマトドレッシング・・・140g(発酵トマト100g、エクストラバージンオリーブオイル40g)

白身魚(刺身用)・・・60g

バジル・・・適量

国産レモンの皮・・・適量

発酵トマトの冷製パスタの材料
▼作り方
  1. 白身魚を一口大に切り、発酵トマトドレッシングに浸して冷やしておく。
  2. カッペリーニは2分30秒ゆで、氷水で締める。しっかりと水を切り、1と合わせる。ボウルに氷水を当てながら、ソースとパスタが絡み、とろみが出るまで菜箸などで60回ほど混ぜる。
  3. 白身魚が上になるように盛り付け、レモンの皮をすりおろして散らし、仕上げにバジルを載せる。
発酵トマトの冷製パスタの作り方
濱口昌大(はまぐち・まさひろ)

PROFILE

濱口昌大(はまぐち・まさひろ)

1979年、大阪府寝屋川市生まれ。25歳のとき、マリオ・フリットリ氏に師事し、「Ristrante Luxor(リストランテ ルクソール)」にて修業を開始。イタリアンレストランを皮切りに、フランス料理「En condition(アンコンディション)」などで勤務した後、「六本木農園」シェフに就任、東京と農家を結ぶコンセプトレストランを運営する。 2010年イタリア、プーリア州に渡り「Ristorante Sotto l'Arco (リストランテ ソットラルコ)」(ミシュラン1つ星)にて修業。 イタリアの地産地消の哲学・ワイン文化に影響を受け、食文化を学ぶためヨーロッパ・北欧10カ国ほどをまわる。 2014年、東京・世田谷区池尻にレストラン「sel sal sale(セルサルサーレ)」をオープン。 2017年に恵比寿へ移転、現在に至る。飲食コンサルタント、また、食の専門学校「レコールバンタン」の講師としても活動中。