渓流とめがね橋(アーチ橋)散策の道(宇佐市)|大分の歩きたくなる道 Vol.02

大分の歩きたくなる道 Vol.02 渓流とめがね橋(アーチ橋)散策の道(宇佐市)

風光明媚な自然やのどかな田園風景。そこで育まれる海の幸・山の幸、城下町の面影を残す町並みなど、魅力満載の大分を歩いて堪能できるコースを紹介します。第2回は、大正末期から昭和初期に造営された、渓谷に架かる美しい石橋(めがね橋/アーチ橋)が数多く残り、「日本一の石橋の町」ともいわれる宇佐市院内町(いんないまち)を歩く道です。
写真:三井公一

コース紹介



〈ウォーキングモデルコース〉

  1. ①道の駅いんない
  2. ②国道500号
  3. ③荒瀬橋(あらせばし)展望所
  4. ④水雲橋(すのりばし)
  5. ⑤宇佐市役所院内支所
  6. ⑥国道387号沿いの農道
  7. ⑦福巌寺(ふくごんじ)
  8. ⑧御沓橋(みくつばし)展望所
  9. ⑨国道387号
  10. ②国道500号
  11. ①道の駅いんない

距離:約9km
所要時間:約2時間30分

〈大分全図〉

宇佐市院内町の町内に75基ある石橋のうち、4基を巡るコース。3月末の取材時には沿道には市内に多くみられる麦畑の田園風景が広がっていた。二毛作が盛んなこの地では6月頃には田植えを終えたばかりの水田が美しいことだろう。国道387号と農道が並行しているので、時間配分や気分に合わせて道を変えるのもいい。展望所が設けられている石橋もあり、記念撮影がてらベンチに座って足を休めることもできる。

高さナンバー1、2の石橋を巡る ①道の駅いんない~③荒瀬橋~④水雲橋~⑤宇佐市役所院内支所

「道の駅いんない」(①)には、30台ほど止められる駐車場、24時間使用可能なトイレのほか、屋根付きのベンチ、レストラン、地元の名産品を扱った売店がある。魅力的なウォーキングスポットが広範囲にわたって点在する院内だが、今回はここを基点として南北へ歩くコースをとった。ウォーキングの途中にも通過するので、必要に応じて施設を利用するとよいだろう。広場で準備運動をしたら、石橋を巡る旅に出かけよう。

売店や飲食店が並ぶ「道の駅いんない」には、準備体操ができる広めのスペースも。準備体操は、念入りに時間をかけて。大きな動きで緩やかに全身の関節をほぐし、筋肉を温めることで、けがを予防しよう売店や飲食店が並ぶ「道の駅いんない」には、準備体操ができる広めのスペースも。準備体操は、念入りに時間をかけて。大きな動きで緩やかに全身の関節をほぐし、筋肉を温めることで、けがを予防しよう

宇佐市院内町には、江戸時代の終わりから昭和の初めにかけて架けられた75基の石橋がある。石橋が多い理由は3つあると言われている。1つは、阿蘇山の噴火によって形作られた深い渓谷地で川の流れが急なため、頑丈なつくりの橋が必要であったこと。また石橋に適した材質の石が豊富に採取できたこと。そして、優れた石工が多かったことだ。

荒瀬橋(あらせばし)は、その優れた石工の中でも、院内にある10基以上の石橋を手掛けた名棟梁・松田新之助(1867~1947年)の代表作の1つで、市指定有形文化財でもある。道の駅から国道500号(②)を渡って、住宅に挟まれた細い坂道を下っていったところに設けられた展望所(③)から、その姿を堪能することができる。1913(大正2)年に架けられた美しい2連アーチの石橋は、橋高18.3mと院内の石橋の中で最も高い。岩場に切り立つ長い橋脚が見事だ。展望所には、あずまやにベンチ、カメラ台も設置されている。

荒瀬橋。院内の石橋は多くが現役の生活道路で、時折車も往来する荒瀬橋。院内の石橋は多くが現役の生活道路で、時折車も往来する

展望所では川の流れを近くで見られるのも魅力だ展望所では川の流れを近くで見られるのも魅力だ

旅の始まりにふさわしい石橋(めがね橋/アーチ橋)の雄姿を楽しんだら、道の駅から南へ向かう。国道500号に戻って、道の駅を左手に見て脇の道に入り、続く分岐で右へ進む。ちなみにこの分岐から左のやや急な坂道を登っていくと、高台に展望台(夢見櫓―アイちゃん―)やスポーツ公園(宇佐市平成令和の森スポーツ公園)があり、展望台からは自然豊かな院内の街並み、山並みを望むことができる。

のどかな田園風景を眺めながら歩けるのが、このコースのもう1つの魅力だ。宇佐市は、焼酎の原料となる大麦の生産量が多く、麦と米の二毛作が盛んである。そのため初夏から秋にかけては水田、冬から春にかけては麦畑と、同じ場所で季節によって違った表情を見ることができる。

のどかな田園風景を眺めながら歩くことができるのどかな田園風景を眺めながら歩くことができる

2つ目の石橋・水雲橋(すのりばし)で恵良川(えらがわ)を渡る(④)。こちらも松田新之助の手によるアーチ橋で、1927(昭和2)年に架けられた国指定の登録有形文化財である。北側に並んで架かる同名のコンクリート橋からその姿を見られる。先ほどの荒瀬橋と比べると小さく見えるが、橋脚の高さは17.2mと、院内の石橋の中でも荒瀬橋に次いで高い。

1つ北側のコンクリート橋から水雲橋を望む。草木に隠れているが、向かって右側にもう1つアーチがあり、2連アーチになっている1つ北側のコンクリート橋から水雲橋を望む。草木に隠れているが、向かって右側にもう1つアーチがあり、2連アーチになっている

なお、道の駅から水雲橋までの道をさらに南下し、富士見橋、鷹岩橋(たかいわばし)といった石橋を巡るコースが、社団法人日本ウオーキング協会による「美しい日本の歩きたくなるみち500選」* に選定されているが、利用可能な公衆トイレがないことなど、現状に鑑みて、今回はここから北を歩くコースとした。

水雲橋を渡ったら右へ折れて国道500号を歩く。道の駅いんないまでの道のりのちょうど中間あたり、左手に見えるのが、宇佐市役所の院内支所(⑤)。道の駅よりも広い駐車場があるので、自治体やウォーキング協会主催のウォーキング大会の際には、ここを起終点とすることが多いようだ。* 美しい日本の歩きたくなるみち500選:2004年、一般社団法人日本ウオーキング協会が国土交通省などの後援のもと、全国から選定したコース。日本の美しい四季と景観、地域の観光資源、歴史資源、文化遺産、食の道などを訪ね歩くことを目的とする。

宇佐市役所院内支所。駐車場が広く、ウォーキング大会の集合場所に使われることも多い宇佐市役所院内支所。駐車場が広く、ウォーキング大会の集合場所に使われることも多い

お寺の境内にある小さな石橋 ①道の駅いんない~⑦福巌寺~⑧御沓橋展望所~①道の駅いんない

続いて道の駅の北側へ向かう。このまま国道500号(②)からつながる国道387号(⑨)を突き進んでいくこともできるが、せっかくなので、国道387号と並行する農道を選ぶのもいい。道の駅を右手に見て十字路を直進し、500mほど先にある次の交差点を右へ、直後に左の細い道へ入れば、あとは道なりに農道を北へ向かえる。こちらの方が車通りも少なく、ウォーキングは快適だ。ただし、農業用作業車優先なので、念のため十分気をつけよう。田畑に囲まれるのどかな道で、ゆっくりと宇佐の自然を堪能したい(⑥)。

国道387号に比べて車通りが少ないため、宇佐ウオーキング協会主催のウォーキング大会などでもこちらの農道がコースに選ばれることが多いそうだ国道387号に比べて車通りが少ないため、宇佐ウオーキング協会主催のウォーキング大会などでもこちらの農道がコースに選ばれることが多いそうだ
農道から再び国道387号に合流する地点に置かれた石碑農道から再び国道387号に合流する地点に置かれた石碑

2kmほど歩いて再び国道387号に出ると、まもなく右手に次の「福巌寺(ふくごんじ)」の看板が見える。坂を登った先にある境内(⑦)、本堂の右側の池には小さなアーチ型の石橋が架けられている。生活道路ではないが、「羅漢橋(らかんばし)」といい、これも院内の石橋の1つだ。

さらに奥へ入っていくと、江戸時代に造られたとされる閻魔洞(えんまどう)がある。岩壁をくり抜いたほこらの中に、閻魔王の石像を中心として、地獄の王である十王(じゅうおう)像、釈迦(しゃか)像、観音像、釈迦の弟子である十六羅漢(じゅうろくらかん)像が、ずらっと並んでいる。池に架けられた先ほどの羅漢橋は、十六羅漢の人数と同じ16本の輪石(わいし アーチを構成する石)で組まれており、関連性は定かではないが、閻魔洞と同じ江戸時代に架けられたものと考えられている。

福巌寺入り口の看板福巌寺入り口の看板

羅漢橋。幅2mもないミニ橋。かつては歩いて渡れたが、現在は安全のため通行は不可。閻魔洞へは奥の道を通っていく羅漢橋。幅2mもないミニ橋。かつては歩いて渡れたが、現在は安全のため通行は不可。閻魔洞へは奥の道を通っていく

閻魔洞にて、ご住職からずらりと並んだ石像の説明を聞く閻魔洞にて、ご住職からずらりと並んだ石像の説明を聞く

もしも寺のご住職、辛島宗紀(からしま・むねあき)さんの姿が見えたら、ぜひ話しかけてみよう。ウォーキング客にたいへん好意的な、話好きのご住職で、お時間があれば、羅漢橋や閻魔洞のいわれはもちろん、院内の石橋巡りの魅力についてもたっぷりと説明してくれるはずだ。また福巌寺では、春はツツジにアセビ、夏にはアジサイ、キキョウと、境内に咲く四季折々の花も見事だ。

最後の目的地である御沓橋(みくつばし)へは、福巌寺から国道387号を挟んで向かいの小道を入っていく。荒瀬橋と同様に、住宅の間を縫う細い坂道を下っていくと、橋を見上げる位置に展望所がある(⑧)。

御沓橋展望所への案内看板。院内の各所にこうした看板が見られ、石橋を始めとした観光ポイントを案内してくれる御沓橋展望所への案内看板。院内の各所にこうした看板が見られ、石橋を始めとした観光ポイントを案内してくれる
御沓橋御沓橋

県指定有形文化財の石橋・御沓橋は、1925(大正14)年に架けられた3連アーチ橋。橋の長さは59mと院内で最も長い。荒瀬橋、水雲橋とはまた違った、どっしりと落ち着いた趣のある石橋だ。しばし川の流れる音と石橋の造形を楽しみながら、展望所にあるあずまやのベンチで休憩しよう。

院内の石橋で最長の御沓橋も歩行可能だ。欄干が低く、車と行き交う時には要注意院内の石橋で最長の御沓橋も歩行可能だ。欄干が低く、車と行き交う時には要注意

復路は、道の駅いんないに向かって国道387号(⑨)・500号(②)を直進する。およそ3km、やや単調な道のりが続くので、景色に飽きたら途中から往路で歩いた農道(⑥)に入るのもよい。

このコースの所要時間は2時間半~3時間程度。朝9時に出発すれば、お昼時には道の駅に戻ってくることになる。整理体操で全身の収縮した筋肉をしっかりとほぐしたら、レストランにある宇佐や大分県の特産品でお腹を満たしたい。どじょう料理や鶏のからあげ、院内産の柚子(ゆず)ポン酢でいただくとり天などの各種定食がおすすめだ。さらに売店では、ゆずソフトクリーム、ゆずサンデーを販売しており、食後のデザートも外せない。渓流・石橋の景観や田園風景の美しさに加えて、院内の食の魅力も堪能しよう。

  • 道の駅いんないのレストラン「いしばし茶屋」で食べられる「どじょう鍋定食」道の駅いんないのレストラン「いしばし茶屋」で食べられる「どじょう鍋定食」
  • 鶏のからあげやとり天、団子汁(だんごじる)といった大分名物が並ぶ「いしばし茶屋御膳」鶏のからあげやとり天、団子汁(だんごじる)といった大分名物が並ぶ「いしばし茶屋御膳」
院内産の柚子を使った「ゆずサンデー」(写真左)と「ゆずソフト」(右)。真ん中のソフトクリームは、ゆずソフトとミルクのソフトクリームをミックスした「ゆずミルク」。ゆずサンデーは、ゆずソフトに柚子ジャムと柚子せんべいをトッピングした逸品(道の駅いんないで販売中)院内産の柚子を使った「ゆずサンデー」(写真左)と「ゆずソフト」(右)。真ん中のソフトクリームは、ゆずソフトとミルクのソフトクリームをミックスした「ゆずミルク」。ゆずサンデーは、ゆずソフトに柚子ジャムと柚子せんべいをトッピングした逸品(道の駅いんないで販売中)

このコースの見どころ 宇佐ウオーキング協会 会長 安部欣司さん

宇佐ウオーキング協会 会長 安部欣司さん

宇佐ウオーキング協会としては、だいたい年間6回ほどウォーキング大会を開催するのですが、院内で石橋巡りをする時は、広い駐車場のある宇佐市役所院内支所(⑤)を起終点として、御沓橋(⑧)まで歩くことが多いです。この往復で約7kmなので、10kmウォークの時は水雲橋(④)もコースに入れます。

御沓橋は展望所も設けられていて、75基ある院内の石橋の中でも有名な橋です。御沓橋と荒瀬橋(③)、それからもう少し北にある鳥居橋(とりいばし)にも展望所があります。鳥居橋は5連アーチですらりと伸びた橋脚が美しく、「石橋の貴婦人」とも呼ばれていて、荒瀬橋と並ぶ松田新之助の代表作なんですが、院内支所から行くと往復20km近く歩くことになるので、県主催など規模の大きな大会でコースに入れていますね。

御沓橋のコースを選ぶ理由としては、荒瀬橋、御沓橋の魅力はもちろんなのですが、実は福巌寺(⑦)のご住職である辛島さんの存在が大きいです。ご住職にはウォーキングや地域活性化の取り組みに協力していただいており、大会などの時はお寺のトイレを貸していただいています。

御沓橋展望所で話し込む福巌寺ご住職の辛島さん(写真右)と安部さん御沓橋展望所で話し込む福巌寺ご住職の辛島さん(写真右)と安部さん

ウォーキングの魅力は、その土地の「宝物」を見られること。宇佐市には石橋以外にも、「日本の棚田百選」に選ばれている両合棚田(りょうあいたなだ)や、千財(せんざい)農園の藤棚、駅館川(やっかんがわ)沿いの桜の名所である桜づつみ公園など、魅力的な場所がたくさんあります。

私も県内各地で開催されるウォーキング大会に参加したり、旅先を歩いたりして、土地の「宝物」である寺社仏閣、由緒のあるスポットなどを見たりして楽しんでいます。長い距離を歩き切った時の達成感もいいですよね。

歩く時は、背筋・背骨を伸ばして綺麗な姿勢で歩くと、疲れにくいです。それと、下を向くのではなくて、少し先を見て歩く。そうすると目線が上がって、おのずと背骨も伸びます。そうしたことを心掛けて歩いてみてください。

安部欣司(あべ・きんじ)

PROFILE

安部欣司(あべ・きんじ)

1958年、別府市生まれ。大分県の職員として宇佐市内の農業技術センターに赴任して以来、宇佐に定住。大分県が大分県酒造組合と共同開発した焼酎用大麦「トヨノホシ」の研究には、責任者として携わった。「運動は苦手だが歩くのは苦にならない」ため、50歳前後からウォーキングを始めた。宇佐ウオーキング協会の大会に足を運ぶうち、前会長夫妻が献身的に運営に取り組む姿に感銘を受け、会員としてそれを手伝っていたが、2019年に会長を引き継いだ。

<ご案内>
2023年6月11日に大分県ウオーキング協会主催で院内の「両合棚田と石橋散策コース」を歩くウォーキング大会が開かれます。最新情報は大分県ウオーキング協会のホームページをご覧ください。